不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

小説探偵GEDO/桐生祐狩

小説探偵 GEDO (SFシリーズ Jコレクション)

小説探偵 GEDO (SFシリーズ Jコレクション)

 昼間はしがない広告屋の三神外道。しかし彼は睡眠中に小説世界へ入れるのだった。現実へ漏れ出た登場人物、あるいは小説へ迷い込んだ現実の人間を引き戻すため、彼は《ノベル・アイ》として、今日も小説の源流へ向かう……。

 雑多な要素が飛び交う作品と言える。ミステリ、やおい、ハードボイルド、アンダーグラウンド、ホラー、伝奇、ファンタジーなどなど、様々なジャンルを舞台に、小説と現実が侵食し合った物語が展開される。文章に勢いがあるのはいいが、設定や作品世界、プロットやキャラなど、ややとっ散らかっている。もっと整理できたはずだ。モラル面で相当に爛れているのも印象的で、これがゆえノワール的な雰囲気も漂わせている。ただし反面、どの短編でも雰囲気が似通ってしまい、舞台となる小説の性格差をうまく反映していないのは残念だ。
 主人公の人物造形は奇を衒わないもので、割といい人なのが好感触。雑駁な印象を残しかねない物語に、読者の感情移入を誘うための、まさに要となる存在と言える。
 次作が書かれると、この世界設定は主人公のトラウマや深層心理に基づく、などとありがちなオチが伝えられそうだが、まあお手並み拝見と行きたい。