心理試験/江戸川乱歩
- 作者: 江戸川乱歩
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/07/14
- メディア: 文庫
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その理由を考えてみた。
まずはやはり、倒叙ものということで犯人の視点があるからである。人命軽視、「安全に遂行するのが難解である」というだけで強盗殺人に走る蕗屋清一郎。その歪んだ合理主義、秀才意識がたまらない。乱歩の筆も乗っており、珍しく底意地悪い、皮肉な文章を綴っている。
第二点は、ロジックの素晴らしさだ。
無論ここで明智が弄する論理は現実には通用しない。そればかりか、現代の本格ミステリにおいても許容されまい。心理試験の結果から、蕗屋が犯人だと特定することは不可能だ(疑念を持つことは可能かと思う)。本格ミステリたるもの、もっと多くのデータ或いは決定的なデータに基づき、フーダニットの答えを出さねばならない。
しかしこの無理矢理な〈理由〉は、それゆえに現代でもオリジナリティを備え、説得力と見紛うばかりの輝きを放っている。こういうのをもっと書いていてくれれば、乱歩も神になれたろうに。(ちなみに私が神認定しているミステリ作家は、バークリーとル=カレの二名のみだ。神=最愛と取られては困るが)