D坂の殺人事件／江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

　明智小五郎初登場の作品。トリックもなかなか評判で、乱歩の代表作として名高い。

　しかし私は何度読んでも、心の底から傑作だと思えない。明智が得々と語ることは、今となっては全て旧聞だ。ミスヲタとしてのキャリア最初期に触れていれば感慨もまた違うのだろうが、残念ながら私がこれを読んだのは大学に入ってから（明言はできないが）であり、フムまあ当然のことしか言ってないよなと、特に感心もしなかった。傾向として、私は思いもよらぬ視点やら感性やらを見せ付けてくれないと傑作視しないところがどこかにある。どこで見せるかは、文章・トリック・プロット・テーマその他なんでも良いのだが、「D坂の殺人事件」はついぞそれがない。
　全集が着々と進行している今日この頃、私は乱歩最大の特色は〈暇人〉ということと考えている。常人なら思いもよらぬ言動をとり、わざわざ危険に足を踏み入れる素敵な登場人物たち。「D坂」にはその味が薄い。だから昔から、私はこの小説に特に思い入れを感じないのかも知れぬ。