不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

盲獣/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男 (光文社文庫)

 ミステリ的な要素はほとんど排され、ただひたすら触覚に拘る、視覚障害を持つ殺人鬼を描く作品。《触覚》そのものではなく、《触覚に拘る》行為の偏執的な様相が作品の肝になる。ややもすると「変態のやることだから」で(自虐も込めつつ)済ませる傾向のある乱歩が、ラスト等で昇華することで、珍しく普遍化を試みているようにも思われ、なかなか興味深い。通俗ものとして盛り上げようとするのは相変わらずだが、もっと真面目(まあ真面目とは何ぞやという議論もあろうが、ここでは立ち入らない。眠いし)に取り組んでいれば、後年盛んになるサイコものの先駆けにもなりおおせたかも知れない。