不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

黒手組/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

 ヴァン=ダインは、推理小説でなされるべきは犯人を裁きの場に引きずり出すことであり、若い男女を結婚の祭壇に送り出すことではないと喝破した。もちろんヴァン=ダインに貸す耳などあり得ないが、「黒手組」における明智小五郎は、若い男女を結婚の祭壇に送り出す機能しか果たしておらず、きっとヴァン=ダインの不興を買ったろう。そう思うと無性に楽しくなってしまった。
 しかし思い返すと、明智小五郎が全ての登場人物に、意図の上でも結果の上でも幸福をもたらすのは珍しい。犯人に対して、いつもの明智は捕縛以上の破滅、場合によっては一味単位での爆死をもたらしているのに。というわけで貴重なテイストだと思う。

 問題は暗号云々。全然惹かれない。乱歩自身の《味もそっけもない》という意見が正しい。