不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

白夜行/東野圭吾

白夜行 (集英社文庫)

白夜行 (集英社文庫)

 まずは『白夜行』に懺悔せねばならない。
 『二進法の犬』『亡国のイージス』『沈黙』辺りとかぶっていたとはいえ、あの時私は『白夜行』を年間ベスト6にも挙げなかった。読んでいたにも関わらずだ。強い思い込み・偏見は、自由で純粋な楽しみさえ阻害する。あの時の私がまさにそれだった。東野圭吾の作品には個人的思い出がいくらかあったため、変に意固地に低めの評価をしていた嫌いがある。もちろんそれは罪だ。当時も今も、私は愚鈍の極致を行くが、何事にも限度というものがある。赦されるべきでないこはわかっている。そうでなくとも私は生きる価値などない人間だ。しかし、全面謝罪と感想の全面取替を行わせてほしい。
 『白夜行』は傑作中の傑作であり、ミステリを愛する者には必読の一冊である。

 さて、ちょうど『幻夜』が出たこともあり、再読してみた。
 中心人物二名の内面を敢えてまったく書かないことで、鮮明に立ち上がる〈悪〉の雰囲気。物語の陰で何か邪悪なものが蠢いている気配は、ただ気配だけであるがゆえに強い印象を残す。話のリズムも素晴らしく、大部なのにまったくだれず、さりとて緊縮し切っている訳でもない。これには、「人を信じたい、でも信じられない」といういつもの感じが弱いことも影響している。あの感覚は、確かに面白くもあるが、時に単なる優柔不断に思え少々苛立たしい。それを排すこと=良いこと、と言っているわけではない。ただ、少なくとも『白夜行』ではプラスに働いたということだ。恐らく、内面描写を省いたから、あの感じが薄まったのだと思われる。

 『白夜行』再読は本当に素晴らしいひとときを私に与えてくれた。だからこそ私は兜の緒を締める。『幻夜』に過大な期待は禁物だぞと。
 2月5日時点、私はまだ『幻夜』を読了していない。ていうかまだ第一章です。明後日には読み終えているはずだが、ネタのストックから言って報告は来週になるだろう。ここを偶々読む全ての人間にとってはどうでもいいことだろうが、私だけは、自身がどのような感想を抱くのか、楽しみにしている。