不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

美の秘密/J・テイ

美の秘密 (Hayakawa Pocket Mystery 171)

美の秘密 (Hayakawa Pocket Mystery 171)

 原題は《TO LOVE AND BE WISE》。邦題も悪くないものの、原題には完敗。まあ今回は仕方ない。

 翻訳の古さを除けば、なかなか読みやすい、ユーモアに溢れた作品である。本格としての構成美はそれほどないが、代わりに田舎の人間ドラマが細やかに描かれている。これが活き活きとしていて素晴らしいのだ。善意だけではなく、むしろ微妙な悪意を主体に描かれる、精密な物語という印象を受ける。要所に撒かれた警句的な文にも味わいがある。具体的な紹介は避けるが、ラストの締め方のなんとかっこいいことか。

 というわけで、古典ファンにはお薦めできる一冊。オールタイムベストを云々できるタイプの作品・作家ではないと思うが、忘れることはできない。