殺人を選んだ七人/R・ヴィカーズ
殺人を選んだ7人 (Hayakawa pocket mystery books―迷宮課シリーズ (971))
- 作者: ロイ・ヴィカーズ,井上一夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1967/02/01
- メディア: 新書
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何にも増して、皮肉にして真摯という、ヴィカーズ独特の筆致が素晴らしい。登場人物の地の文における描写からそれは明らかである。性善説を採用しない人間の文章だし、〈幸福な状況〉にも色々と注釈を加える辺り、割と屈折している。しかし、最後で浮き彫りにされるのは、犯人の残酷さや愚かさではなく、ほとんどの場合、罪を犯さざるを得ない内的必然性に突き動かされた、犯人の悲哀である。なんだヴィカーズ、結局いい奴じゃん、などという感想をいつも抱く。結構癖になる後味である。
所収短編の中では、「あわれなガートルード」が特に好きである。こういうタイトルは皮肉であることが多いのだが、ラストでは予想に反して本当に哀愁を感じさせる。他の六篇も、いずれ劣らぬ出来栄え。本当にいい作家、いいシリーズだと思う。