不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

殺人を選んだ七人/R・ヴィカーズ

殺人を選んだ7人 (Hayakawa pocket mystery books―迷宮課シリーズ (971))

殺人を選んだ7人 (Hayakawa pocket mystery books―迷宮課シリーズ (971))

 七つの短編が収められている。だから『殺人を選んだ七人』というわけ。ちなみに、例の迷宮課シリーズもの。

 何にも増して、皮肉にして真摯という、ヴィカーズ独特の筆致が素晴らしい。登場人物の地の文における描写からそれは明らかである。性善説を採用しない人間の文章だし、〈幸福な状況〉にも色々と注釈を加える辺り、割と屈折している。しかし、最後で浮き彫りにされるのは、犯人の残酷さや愚かさではなく、ほとんどの場合、罪を犯さざるを得ない内的必然性に突き動かされた、犯人の悲哀である。なんだヴィカーズ、結局いい奴じゃん、などという感想をいつも抱く。結構癖になる後味である。

 所収短編の中では、「あわれなガートルード」が特に好きである。こういうタイトルは皮肉であることが多いのだが、ラストでは予想に反して本当に哀愁を感じさせる。他の六篇も、いずれ劣らぬ出来栄え。本当にいい作家、いいシリーズだと思う。