のら犬ローヴァー町を行く/マイクル・Z・リューイン
のら犬ローヴァー町を行く (Hayakawa novels)
- 作者: マイクル・Z.リューイン,Michael Z. Lewin,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2000/06
- メディア: 単行本
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約290頁で38編である。しかも全編に半ページ使ってイラスト(恐らく原書からそのまま持って来ている)を付けており、実質的な各編の長さはさらに短い。そして、各編の長さも均衡している。事実上のショートショート集であることはおわかりいただけるだろう。
犬に関わる人間の話と、他の犬に関する話が多いが、猫もたまに絡んでくる。ローヴァーの性格設定は若干アルバート・サムスンに通ずるものがあり、若干回りくどい愉快な皮肉をベースに、人間とその社会を批判的に捉え、他の犬に語りかけ、自らの思いを述懐する。この語り口が、犬の生き様の断面・断層を見事に切り取るのである。
主眼は以上であるが、ローヴァーがどの程度人間社会を知悉しているかについて、各編で知識レベルにバラつきが見られるなど、主人公がローヴァーであること以外の縛りは弱い。犬属は人語を解さないという設定ではあるのだが、ある作品で「これは言葉を読み聞きしある程度の知識がないとわからんのではないか」という事項があっさり使われている一方、次の短編では人間社会のことを全くわかっていなかったりするので、これらの点につき神経症の気配がある人間は気になるだろう。もっとも、「恩人の手」のような名編で「ローヴァーが人間のことを理解し過ぎている!」などと揚げ足取りするのはいかがなものかと思うが。
いずれにせよ、大変素晴らしい短編集であり、犬を語りつつも人間についても深く考えさせられる。もちろん、犬との接し方についても。リューイン・ファンと犬好きは必読。