不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

GOTH/乙一

GOTH―リストカット事件

GOTH―リストカット事件

 良かった。なんと言ってもセンスがいいのだ。とはいえ、「ミステリにする必要ないじゃんこの人」という山のようになされている指摘を吹き飛ばすには至らない。まあ必然性がないとミステリ書いてはいかんのかという根本的なところで私は深い疑念を抱いているので、ここら辺はとりあえず横に置いておくべきでしょう。*1
 全短編を彩る、主人公の異常さがいい。そしてその異常さが、自分とまったく無縁とも言い切れないのがいい。こういう小説書かせると、やはりこの人はうまい。
なお、森野がどんどん普通の「変な女」になってゆくのは残念。もっとイッてしまったキャラのままだったら良かったのに。
 なお、ミステリ的な仕掛けであるが、綾辻我孫子しかミステリ読んでいないんではないかと思えてならない。これは別に批判しているわけではなく、そういう読書暦しか持たない人間がミステリに挑むとどうなるのか、という「いい例」が提示されている。「悪い例」ばかりに注目せず、こういうところもちゃんと注目してもらいたいなあと思うわけである。

*1:必然性云々でミステリを書く人に別のもの書けと言うのは、自分がなぜミステリを読んでいるのかという疑問に十全に答えて初めて言えることだと思っている。ちなみに、私の場合、自分がミステリのファンであり続けられるのか非常に不思議なわけで、よって乙一にガイシュツの指摘する資格なし。