ショコラティエの勲章/上田早夕里
- 作者: 上田早夕里
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/03
- メディア: 単行本
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洋菓子とその職人たちにまつわる、6つのエピソードを集成した連作短編集である。ミステリとしての強度は弱く、ネタの印象も薄い。しかしながら、ここで注目して欲しいのは、描かれている人間模様の鮮やかさである。その人間模様が浮かび上がるのがいつか――謎に対応する真相として出て来るのか――はどうでもいい。ミステリに絡めていようがいまいが、「鏡の声」と「七番目のフェーヴ」に描かれる、人間の病的な執着は実に残酷かつ怖いものである。また、その後の四編で描かれる《職人のシビアな世界》もまた素晴らしい。スイーツの繊細だが甘い味にそぐわない、襟を正さざるを得ない矜持が、人間ドラマとしてクリアに、臭くなく描き込まれている。食べる側の人間が立ち入れない、という敷居の高さを冷酷に提示するのも、実にいい。
というわけで、作者の実力には確かなものがあり、他の作品も読んでみたくなった。文句を言うとすれば、「鏡の声」と「七番目のフェーヴ」は菓子職人との関連性が薄いと言わざるを得ず、一冊の本としては若干バランスが崩れているということだが、まあこれは些細な疵だろう。ミステリとしてはともかく、単純に、いい小説である。
ついでに申し添えておくと、シリーズ・キャラクターの