不壊の槍は折られましたが、何か?

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山田和樹/横浜シンフォニエッタ シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

 2010年11月5日、横浜市青葉台でのフィリアホールでのライブ録音。
 歌謡性に傾斜した演奏で、しかもその歌がシック。第一楽章主部からメロディーをなだらか滑らかに繋げるべく、レガートやテヌートが多用されている(もちろんジュリーニのような極端なものにはなっていませんが)。抑揚もメロディーを歌うことを最重視して付与されており、迫力や推進力はその次に考慮されている感じ。結果、楽曲全体が慈しむような雰囲気に包まれることになっていて、聴感上はこれが最大の特色だ。ただし伴奏部でもリズムがぽんぽん弾んでいて、活力も必要十分に出ているのは見逃すべきではない。寂しさや哀しさなど暗い要素もしっかり拾い上げており、《グレイト》という大曲の魅力をあまさず伝えてくれる良質な演奏と評価できる。なお見栄を切るかのような場面も若干ながらあって、芝居気もちゃんとある辺り侮りがたい。丁寧な音楽作りが為されていることもあって、好感度の高い演奏だと思います。
 ただし山田和樹自身のものと思われるうなり声が聴かれる瞬間があるのが問題である。そんなところで小林研一郎の影響を垣間見せなくてもいいのに。特に、フィナーレのコーダのドードードードー3回中、2回もがなっているのは許しがたい。台無しだよ色々と。