不壊の槍は折られましたが、何か?

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ジョン・エリオット・ガーディナー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

amzn.to

 

 1997年8月、ザルツブルク祝祭大劇場でのライブ録音。ということはザルツブルク音楽祭での共演時についでに録音したということだろう。ライブと言いつつ拍手等はカット。カップリングはモンテヴェルディ合唱団を使っての《水上の精霊たちの歌》である。
 軽やかな演奏だが、シノーポリとは決定的に異なり、あくまで明るく健康的である。特別なことは何もしておらず、テンションもそこまで高くなく、リズムの刻みは浅く、メロディーにはそれほど耽溺しない。ビブラートこそ控えめながら、テンポ設定もシンプルで、指揮者が細部に拘りを見せているようには聞こえないのだが、とにかくどの瞬間も実に爽やか。何より重要なのは、ウィーン・フィルの美音が絶好調としか言いようがないことで、可愛い瞬間を随所で実現する。こういう演奏なら、オーケストラもやっててさぞ気持ちいいだろう、などと思ってしまう。ところがどっこいガーディナーウィーン・フィルにとことん馬鹿にされたと専らの噂であり、共演していた時期は短期間に終わり、現在では関係が絶たれている。よってウィーン・フィルがこの録音で本当に快適に演奏していることは、ほとんどあり得そうにないことと思われる。ということは私のこの感想は、全くもって的外れである可能性が高い。「ガーディナーとの《グレイト》、やってて凄く楽しかったでしょう?(笑顔)」などと質問したら、楽団員には怒られそうですらある。
 しかしそれでも、私にこの録音が魅力的に聞こえた事実は否定しようがない。音楽とはまこと奇妙なものである。
 まあ指揮者・演奏者の本音がどうあれ、これはこの交響曲楽天性と軽快さ、そしてソフトさを見事に表現した演奏であるとは思う。名録音の一つにカウントしておきたい。