不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

十六歳の肖像―グイン・サーガ外伝7/栗本薫

 外伝7巻は短編集である。内容はタイトルどおり、主要登場人物の十六歳の頃のエピソードを個別に紹介するというもので、扱われるのはナリス、ヴァレリウス、マリウス、スカールの四人。イシュトヴァーンは、他の外伝で十六歳の頃が散々描かれるからか、今回は参加されていません。
「闇と炎の王子」は、病弱だった頃のナリスがグラチウスに誘惑される物語である。何せ体が弱いので、ナリスの美形っぷりは儚げなものとして表れている。また両親の愛を受けられず、権謀術数渦巻く宮廷で孤独に生きていたのがよくわかる内容で、ナリスのルーツを知る上ではなかなか興味深い作品といえるだろう。ヴァレリウスとすれ違ったりするのがいとをかし。
「暗い森の彼方」はそのヴァレリウスの話。病身の師匠に、不死をもたらすとされる黒の書を取って来いと言われて、ヴァレリウスは深い森の中に踏み込んでいく。ヴァレリウスは結構複雑な性格をしている(単に作者が整理できていな……いや何でもない)人間で、そのことがよく出ている作品である。よって作品のピントがいまいち掴みにくい。ただ彼が魔道師となるきっかけをいかにして掴んだかはわかるので、今後重要なまたは参考にできるエピソードになってくるのかも知れない。
「いつか鳥のように」は、マリウスが音楽をジプシーっぽい人に習う話。マリウスの柔弱さが非常に酷く、エヴァにも乗れない歳になってまで何をやっておるのかと突っ込みたくなる。そもそもモンゴールの公子殺害までは、マリウスってもうちょっと堂々とした性格だったと思うんだが……。
 本書の白眉は最後の「アルカンド恋唄」であろう。若き日のスカールが、草原の近くにある古都アルカンドで、かどわかされそうになったナウレシア姫を救って……という話。基本的には悲恋ものだが、登場人物自身が述べるように、スカールが草原を、ナウレシアが町を象徴しており、この二人が相容れぬながらも惹かれ合う姿と厳しい現実、しかしそれをしっかり受け容れる結末を非常に直截かつ流麗に描いている。延々と続くモノローグがない点もプラスに働いていた(というかプラスにしか働きようがない)、実にかっこいい作品だ。強くおすすめしたい。