不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

禍家/三津田信三

禍家 (光文社文庫)

禍家 (光文社文庫)

 12歳の棟像貢太郎は、事故で両親を亡くし、祖母と共に東京郊外の一軒家に引っ越してきた。初めての田舎生活なのに、なぜか近隣の風景や家そのものに既視感がある。そして近所の怪老人に呟かれた《ぼうず、おかえり……》という言葉に胸騒ぎを覚えた彼を、様々な怪異が襲う。一体自分は何に巻き込まれたのか? 貢太郎は、友達になった少女・礼奈と一緒に自宅の過去を探り始めるのだったが……。
 怪奇現象に怯むことなく立ち向かう少年の姿がとても印象深い。また、怪異が意味不明なものではなく、ちゃんとそれなりの理由をもって提示されており、ミステリ的な構成も活用して《整合性の取れた作品世界》を実現している。初恋のドキドキ感も適宜挟まれており、少年少女の健やかな成長も温かく描かれていて微笑ましい。良い意味でまっすぐな小説といえるだろう。文章も親しみやすいテーマに比例して読みやすくなっており、物語の結構はホラー・ファンにも本格ファンにも受けは悪くないと思われ、しかも文庫と来ている。広くおすすめしておきたい。
 なおこの物語は内容的に、ホラーなんてどうせ無茶苦茶やっても許されるんでしょ、なんてそれこそ無茶苦茶言う人*1に「最も無茶苦茶なのは超常現象やそれをモチーフにする作家・作品ではなく、お前のような生ある人間に他ならない」と言い返すことができる。なかなか興味深い。

*1:もっともこの種の発言を、私はホラーではなくSFに関して聞くことが多い。