不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

錆びた刃/マーカス・セイキー

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 幼馴染みのエヴァンと質屋に忍び込んだダニーは、そこで質屋の主人と出くわしてしまう。エヴァンは主人を射殺し捕縛されるが、共犯ダニーのことを取調べや公判で語ることはなかった。7年後、ダニーは完全に足を洗い恋人pのカレンと同棲、真っ当な建設会社《オドネル建設》に勤めていた。そんな彼の前に、刑務所から出所したエヴァンがやって来る。エヴァンは強盗殺人の咎を一身に背負ったことを恩に着せ、かつカレンに危害を加えると脅し、ダニーをオドネルの息子の誘拐計画に加担させる。誰も傷付けたくないダニーの思いとは裏腹に、エヴァンは暴走を始めた……。
 この作品は、平均すると一章当たり10ページもないパートで分割されている。場面や視点の転換を伴わないチャプター切り替えも多いが、おかげでその真面目な内容の割にテンポ良く読み進めることができる。こういった親切設計は嬉しい。その短い各章に過不足なく登場人物の感情が盛り込まれており、格調の高さや抑えた筆致も含めなかなか好印象である。振り切れない過去と友情、真の改悛に社会復帰など、深いテーマも目白押しだが、登場人物の人格がいずれも確固としているのも特徴で、よくある未熟者のアイデンティティ追求譚になっていないのは素晴らしい。
 総じて非常によく練られた小説といえ、クライム・ノベル愛好家のみならず広い層におすすめできる作品となっている。