不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

首無の如き祟るもの/三津田信三

首無の如き祟るもの (ミステリー・リーグ)

首無の如き祟るもの (ミステリー・リーグ)

 推理作家・媛之森妙元は、昭和40年代後半に、本名・高屋敷妙子の名前で、実在の殺人事件を小説として連載し始める。この事件は、妙子の夫であった元が、巡査として捜査に血道をあげた、戦中と戦後にまたがる(?)連続殺人事件であった。奥多摩の媛首村を支配する秘守一族(一守家を主家として、一守・二守・三守よりなる一族)を襲う、不気味な首無し殺人……。これは、伝説の淡首様の祟りなのか?
 各種の要素が複雑に入り組んでいるにもかかわらず、一発ネタとすら言える単純な仕掛けが炸裂するや、事件の全貌が明瞭となるのには唸った。伏線も、ばら撒き・回収ともに実に素晴らしい。さらに、作品の抱え持つメタ構造すら完璧に機能しており、感涙ものである。
 一方で、ホラー要素はかなり後退しており、怪奇幻想作家としての三津田信三に期待する層は、若干がっかりするかも知れない。しかし、おどろおどろしい情感や、少年の清新な探究心・冒険心・好奇心といった辺りは、明確に打ち出されている。あまりにも凄まじい本格ぶりの前に霞みがちだが、雰囲気醸成における一定の成果もまた、読みどころの一つであろう。
 というわけで、『首無の如き祟るもの』は、凝りに凝ったド本格の大傑作である。『厭魅の如き憑くもの』や『凶鳥の如き忌むもの』を超える、シリーズ最高傑作の誕生といえよう。本格ファンは必読!