不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

罪深き愉しみ/ドナルド・バーセルミ

 サンリオSF文庫では、本書は《ノンフィクション》とされているが、嘘をつけ。
 というわけで、内容自体はバーセルミらしくフラングメントが炸裂する。しかし『口に出せない習慣、奇妙な行為』に比べると読みやすい。文章のコラージュ度合いが僅かながら低く、また物語自体もシンボリックな寓話としての性格が強まっており、比較的普通に読める作品集となっているのである。とはいえ、一冊全体では概ね毒々しい皮肉に満ちていることに変わりはなく、非常に濃密なひとときを過ごすことができる。相対的な読みやすさと、この人独自の作風とのバランスを「完成度」というのであれば、『罪深き愉しみ』は完成度の高い作品集である。じっくり・がっつり読書に取り組みたい人には強くお薦めしたい。相変わらずエンタメでは全くないけれど、この濃厚極まりない味付けは癖になる。