不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

氷の天使/キャロル・オコンネル

氷の天使 (創元推理文庫)

氷の天使 (創元推理文庫)

 キャロル・オコンネルは『クリスマスに少女は還る』しか読んでいなかったが、当時あまり良い印象を持たなかった。刊行当初に読んだのだが、堅牢なミステリであることは十二分に認めつつも、アレがどうもピンと来なかった。「うん、感動させたいのはわかりました。泣く人は泣くでしょうね。で?」と白々しく思ったのである。たいへん申し訳ない。
 『氷の天使』は、オコンネルの処女作にしてマロリー・シリーズの第一作。25歳で超美人警官マロリーの養父、マーコヴィッツ(彼もまた警官である)が、連続殺人犯の3人目の犠牲者として殺される。マロリーの気性を恐れた警察は、彼女に休暇をとらせるが、彼女は、同僚や友人の手を借りて、独自に調査を開始するのだった……。
 老人層、富裕と貧困、株取引、霊魂、イリュージョン、ちょっと頭おかしい人等々、色々な要素が出て来る。基本的な作りは非常に堅牢・堅実であり、意外に本格ミステリしてくれるのが嬉しい。グレードは高いと言えるだろう。しかし文章や語り口は問題視できるかもしれない。悪くはないのだが、微温的な側面も割と強く(あと仕入れていた評判ともギャップを感じ)正直戸惑った。また、何がしたいのかかよくわからないシーン(伏線というわけでもなく、単に意味が薄い部分。作者としては雰囲気を出したかったのだろうが、消化不良)も散見される。また、キャラを読者に要領よく印象付けることにも失敗気味。その他の面でも、プロット含め結構ごちゃ付く。
 マロリーのキャラ作りも、個人的には物足りない。というか、周囲の評判から、えらくマッドなキャラを妄想していたのだが、本作を読む限りにおいては、思ったより普通で驚いた。しかし主人公として魅力的であることは確かで、先入観さえなければ楽しめたはずだ。
 というわけで、終始もどかしい読書となった。作者は、プロットが捩じれているとはいえ、ネタやアイデア勝負の人ではない。小説作話の基礎力は高いので、作を重ねるごとに成長するタイプと思われる。そもそも慣れの問題かも知れないので、この後に期待。