不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死のオブジェ/キャロル・オコンネル

死のオブジェ (創元推理文庫)

死のオブジェ (創元推理文庫)

 画廊でオブジェのように装飾されて殺されたアーティスト。その画廊では12年前にも、同様の事件が起きていた。当時、マーコヴィッツは犯人と目された人物が無実ではないかと疑っていた。マロリーは、亡き養父の疑念を正当とみなし、12年前と今回の事件の関連を調査し始める。しかし市警上層部方面から妨害が……。
 シリーズ第三弾、傷を抱えている人々の織り成す、愛憎の篭もった人間ドラマが素晴らしい。実際、この作家はキャラに焦点を当てて読むべきなのではないだろうか。もちろん、ミステリ・小説としての構えも非常にがっちりしているので、キャラだけの小説ではないのもポイント高い。捩れたプロットと、分厚いが温かい文章に慣れさえずれば、安心して読める。
 今回の特筆事項は、シリーズ・キャラにも動きがあることだ。事件に触発されたのか、マロリーが、養父母にさえ語らなかった過去の一部を垣間見せる。また、それとの直接の関係はないが、チャールズが益々壊れてきた。登場するたびに悶々としていると言っても過言ではない。そして彼らは、ラストで次作への期待を煽ってくる。
 作者の亡き父への献辞と、マーコヴィッツの死に関する表現が同一なのも印象的な一編であった。