擬態/ジョー・ホールドマン
- 作者: ジョーホールドマン,Joe Haldeman,金子司
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/05
- メディア: 単行本
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『終りなき戦い』『終わりなき平和』における思弁性*1は見られない。代わりに『擬態』は、地球におけるエイリアンの活動を巧みなストーリーテリングで読者の前に活き活きと提示する。もちろんこれには副作用があり、《変わり子》は、地球人類と全く異なる生命体であるにもかかわらず、段々人間臭くなってくるし、《カメレオン》も妙に典型的な邪悪さを備えてしまうのだ。さらに、地球人科学者ラッセルに視点が移るパートも、どうにも通り一編の内容しか持たないうらみがあり、人間ドラマ(というか知的生命体ドラマ)としては若干物足りない。そして、SFとしての基本アイデアにも、目新しさは見受けられないのである。
しかしリーダビリティは高く、ラッセル・《変わり子》・《カメレオン》の視点を交互させて読者を飽きさせないし、サスペンスも徐々に盛り上げて大したページターナーぶりを発揮する。さすがベテランであり、サクサク読める娯楽小品として、堅実な仕事ぶりをしっかりと評価されるべきだろう。
以下は蛇足。先に、『終りなき戦い』『終わりなき平和』における思弁性が失われていると書いたが、かの名高い2作において追求されたテーマが掻き消えたわけではない。『擬態』では、それらのテーマが、作中での前置きなしに、そのままポッと提示されている。ホールドマンの視線の先にあるものは、恐らく何も変わってはいないのだろう。
*1:それほど強いものではなかったが、いい感じで話を締めていた。