火縄銃／江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪 (光文社文庫)

　「火縄銃」は有名物理トリックが見られる、実質的な乱歩の処女作である。作者自身は覚書程度だと謙遜し、実際のところ小説として面白く見せようとの努力は見られない。淡々と出来事を述べてゆく文体で、味付けは微々たるものだ。しかし単なるメモとまでは行かず、最低限読者の目を意識した文章にはなっている。というわけで、これは習作と解釈するのが妥当だろう。
　繰り返すがネタは非常に有名。題名を見た瞬間に予測が付く人もいるはずだ。もっとも個人的にはこのネタ自体、大したものと思えず、話としてもさほど楽しめない以上、特に称揚すべき作品とは思わない。この作品をもってデビューしたわけでもない以上、飽くまでも習作として、江戸川乱歩という作家を考える際以外では、特に意義のない小説だと思う。