不壊の槍は折られましたが、何か?

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堀越捜査一課長殿/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第20巻 堀越捜査一課長殿 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第20巻 堀越捜査一課長殿 (光文社文庫)

 作者自身は失敗作としているが、なかなかどうして良作な一遍。この時期(1956年)としては異例なほど整理された作品であり、扇情的な要素も割合に抑えられている。一方で、乱歩お得意の一人称節が、下品にならぬ程度に芳醇な味わいを添えており、いい按配に仕上がっていると思う。
 なお、ミステリ的なネタは、作者が生涯を通して延々と描いてきたものであり、確かに芸がないと言えば芸がなく、マンネリといえばマンネリ。しかしこのテーマだと、乱歩の筆からは何とも言えない浪漫が香りだすわけで、私としてはマンネリだと一蹴することは躊躇する。
 ひょっとするとこの短編、乱歩最後の輝きではないだろうか? というわけで、ファンは必読。