不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

蘆屋家の崩壊/津原泰水

蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)

蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)

 読みやすいけれども凝った文体を駆使して描く、幻想小説の数々。とにかく文章がいい。

 たとえば、食事が本当に美味しそう。「それって何か意味あるの?」と言う人もあろうが、然り意味あり、と答えたい。二人とも豆腐好きであるとの理由で主人公コンビが付き合い続けていることを、感情面から強固に裏付けているからだ。他にも、気色悪いシーンは本当に気色悪く、痛そうなシーンは本当に痛そうだ。何よりも、この文章であればこそ、クライマックスで頻出する〈不気味さの演出〉を決めることができるのだ。
 この作品集中、私が最も好きなのは「超鼠記」である。ラストの余韻が凶悪なまでに素晴らしい。「猫背の女」も素晴らしく、ストーカーをホラーどころか幻想怪奇にまで高めた稀有な作品と考える。他の作品も負けず劣らず面白い。唯一「水牛群」のみ、理解が覚束なかった。会社を干されて鬱モード炸裂な辺りまでは楽しめたのだが、その先を読みこなす解凍ソフトを私はまだ持っていない。残念と言うよりも無念な気分を覚えた。
 というわけで、濃密な短編集が読みたい人には遠慮なく薦められる。