不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

マインドスター・ライジング/P・F・ハミルトン

マインドスター・ライジング〈上〉 (創元SF文庫)

マインドスター・ライジング〈上〉 (創元SF文庫)

マインドスター・ライジング〈下〉 (創元SF文庫)

マインドスター・ライジング〈下〉 (創元SF文庫)

 温暖化の進行した近未来、共産党独裁による社会混乱から立ち直りつつある英国を舞台に、人工的な超感覚者である元傭兵と、同じく人工的に超絶的な情報解析能力を持つ少女が、少女の祖父が築き上げたハイテク産業を守るべく、奮闘する物語。

 アクションもかなり盛り込まれるが、基調にあるのは堅実な人間ドラマである。決して鋭くは突っ込まないが、その代わり枚数を用い、じっくり丹念に、主要登場人物を描出してゆく。解説で「イギリスらしい」との言葉が出て来たが、なるほどそんなものかもしれない。というわけで、確かな手ごたえを感じさせる作品である。傑作とは呼ばないでおくが、落ち着いて読書ができる人には楽しめるだろう。