不壊の槍は折られましたが、何か?

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エフゲニー・スヴェトラーノフ/スウェーデン放送交響楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

 1990年9月18日、ベルワルド・ホールでのライブ録音。
 たっぷりとした大柄な演奏である。ザンデルリングほどではないがこれも雄大でなだらかな演奏。どっしり構えてその中でシューベルトの旋律をたっぷり味わわせてくれるが、テンポは取り立てて遅いわけではありません。迫力にも事欠かず、テンポ変化も付けるときは付けて行きます。指揮者がオーケストラを強烈に締め上げるのではなく、各奏者が割とのびのび旋律を奏でているのも特徴として挙げられるでしょう。それでいて第二楽章では儚げな風情も拾い上げている辺り、抜かりはありません。ただし、のびのびし過ぎ・なだらか過ぎの傾向は感じられ、オーケストラの奏楽自体は素晴らしいクオリティが保たれているのに、内的緊張感が足りないというか、必要以上にリラックスしている感覚が付きまといます。ただしこれはスヴェトラーノフの芸風でもある(と他の曲の録音を聴く限り思う)ので、文句を付けるだけ野暮というものかも知れません。演奏終了後1分以上拍手が収録されており、その中でオーケストラが指揮者を賞賛するためにファンファーレを奏でています。どうやらこれが指揮者が良かった時の伝統な模様(私は実演で出くわしたことがないので、やる地域やオケが相当限定的である可能性があります)。オーケストラとしてはこれで文句はないんでしょう。事によると、何かがマイクに入り切らないタイプの指揮者だったのかも知れません。
 カップリングは1986年9月8日演奏の《未完成》である。これもまた《グレイト》と同傾向の演奏。《未完成》は殊更暗い表情で奏でられることも少なくなく、ここまでのびのび歌われるとこれはこれで十二分にアリだなと思わせられる辺り、《グレイト》よりも希少価値および説得力が高いと考えます。