不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

時間のかかる彫刻/シオドア・スタージョン

時間のかかる彫刻 (創元SF文庫)

時間のかかる彫刻 (創元SF文庫)

 本を読むペースが鈍化している。都会に出て来たからであろう。田舎じゃキモヲタは他に何もできません。少なくともクラヲタという《本体》が姿を現すのは不可能だ。今はその反動期であり、致し方ない。

 それはともかくスタージョンである。今回もまた大変素晴らしい作品集で感動した。スタージョンはアイデア基礎とした《世界》を作り込むタイプの作家ではないが、ネタを効果的に使用する術に長けている。そして何より、感傷性を盛り上げるのが非常にうまい。切なさなんて書かせたらもう最高である。また、熱気や狂気をスパイスまたは隠し味風に使い回し、テンションの高さを維持することもできるのだ。いやはやまったく素晴らしい作家である。
 『時間のかかる彫刻』は、そんなスタージョンの全貌を手っ取り早く俯瞰したい人には強くお薦めしたい。文章や雰囲気も含め、作品の全ての要素を念入りに練り上げている(脳の足りない人は文学的と言うだろう)作品から、アイデア勝負(若しくは落ち勝負)の短編まで多士済々。時に苦く、時に甘いこれらの味わいは、しかしその全てが紛れもなくスタージョンなのである。わかりやすい作品がほとんどだし、文庫だし、入門には最適な一冊といえよう。