不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

春期限定いちごタルト事件/米澤穂信

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

 主人公の、斜に構えた態度が要となる作品。彼の賢しげな態度は、ご多分に漏れず、トラウマ・純真・青さの裏返しでしかない。ありがちな展開だが、文章や小説作法が非常に手馴れており、とても滑らかに頭に入って来る。意図的に間を抜かしていることもあって、終始とても軽い話だが、青春のひとコマを、見事に切り取っていると感じた。深刻ぶるのもいいけれど、たまにはこういう作品で息抜きしないと。
 なお、『さよなら妖精』がひたすらいじらしく切ない話だったので、ギャップに少々戸惑った。どちらが本当の米澤なのか、或いは引き出しの多い作家なのか。今後を注視したい。

 別の話だが、解説には考えさせられた。有名な《受け手》でしかない人物には、人様の解説で自らの業績を顕示しつつキャラで押し切る芸当が許されるのだろうか? 人様の解説で《日本のポール・アルテ》と自称した人が昔いたが、彼は一応良質の作り手だったわけで……。