不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

隠し部屋を査察して/エリック・マコーマック

隠し部屋を査察して (創元推理文庫)

隠し部屋を査察して (創元推理文庫)

 奇妙な話を幻想・怪奇・奇想で包む素晴らしき短編集。落ち着いた読みやすい筆致で、しかし明らかに歪んだ、異常な感覚を伝えてやまない。全20編が収められている(各編は非常に短い)が、いずれ劣らぬ驚異の水準を維持している。
 特徴としては、非常に残酷・残忍な情景が多いということである。また、純文学作品としても評価し得るほど文章の格調が高い。我々ミステリ・ファンにはオチが読みやすい「エドワードとジョージナ」辺りに象徴的だが、それほど目新しいネタではない話に、なぜこれほどまでに静謐な不気味さが漂うのか、非常に表現しづらい。オチが読めない(というかオチが存在しない)変な話もたくさんあるが、全てがこの《静謐な不気味さ》に彩られており、非常に印象深いのである。読み手の心にじわじわと染み込んでくるようだ。また、訳文も非常にマトモで、マコーマックの特異な世界を心ゆくまで堪能できる。
 要するに傑作短編集であり、異色作家好きは必読だ。文庫化されるまでこの作家の存在を知らなかったことを恥じるものである。