不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

警士の剣/ジーン・ウルフ

Wanderer2005-10-19

 《新しい太陽の書》第三巻。《世界》がまた一段と明らかにされてゆくとはいえ、本巻で一番強調されるのは、恐らくアドヴェンチャー色だろう。とりあえずにだが、セヴェリアンが冒険する物語と捉えていいのかもしれない。
 もちろんそこはジーン・ウルフのこと、単純な冒険譚を書くわけがない。まず、ここには血沸き肉踊る動的な感興などない。物語は常に回顧的な情感を孕んでおり、一人称により静々と述懐されてゆく。華麗な文章に彩られる数々の出来事は、寓話性が例によって非常に高く、細かい示唆も一々が重々しい。また、文章や出来事の背後に、例によって色々と裏の意味がある感じだ。疑うべき極上のテキスト、そして華麗な物語。個人的には理想的としか言いようがない読書体験。素晴らしい……。
 さて、SF的には本巻で、とある要素の関与が明らかにされる。これによって裏読み・深読みの余地が爆発的に拡大していることを付言しておきたい。