不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

愚者のエンドロール/米澤穂信

Wanderer2005-07-10

(角川文庫版;はまぞう未登録)
 古典部シリーズ第二作。とあるクラスが作りかけ・撮りかけの映画。しかし脚本家は倒れてしまった。オチを《発見》すべく、古典部の四人は《女帝》の依頼を受けて調査を開始する。
 斜に構えた奉太郎視点の語り口が、相変わらずとても楽しい。ラストがいいですね彼らしくて。そしてエンドロールも気が利いている。ただ『愚者のエンドロール』は、映画一本にストーリーが絞られており、また最終的に一つのテーゼに収斂する。よって、様々な要素が不思議に共存した『氷菓』では、《高校生活を多面的に描いた》が故に色濃く感じられた青春小説*1という味わいが、『愚者のエンドロール』では後退している。よりはっきり言えば、構造が単純化している。
 もちろん高品質は保たれており、文句など言うつもりは皆無なのだが、個人的には前作の方が好みかな。そんな感じです。

*1:常々思っているのだが、青春小説は友情や恋愛のみに非ず、ということが忘れられがちではないか。あの時期にしかない(まあ人によっては一生青臭いが、それは人としては恥ずかしいことかと思う。)青臭い世界観、無根拠でその無根拠を自覚しない自信に満ち溢れた態度とか、描くべきものは多いはずなのである。長ずれば、人は世界に真の意味で絶望するのだから。