不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ペニス/津原泰水

ペニス (双葉文庫)

ペニス (双葉文庫)

 50歳の公園管理人が一人称で語る、寂莫たる心象風景と日常、そして幻影。基調は以上であり、要するに通例ならば落ち着いた情感で綴られるべき話なのだ。しかし津原泰水はそんな常套的手法を取らない。現実と幻想は加速度的に混交され、ストーリーもけっこう動的にヒートアップしてゆく。にも関わらずやはり主人公の視線や語りは冷たく、それが逆に彼の狂気を読者に刻印する。このギャップが生む迫力は圧巻。濃密な読書体験が可能であり、私は非常に楽しんだ。
 手が込んだ文章ということもあって、感想をうまく書けない作品ではあるが、好きな人は一撃死できるだろう。

 笠井潔の解説は相変わらず、読み物としては面白い。ファンは必読であろう。