悪霊/江戸川乱歩
江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪 (光文社文庫)
- 作者: 江戸川乱歩
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/06/01
- メディア: 文庫
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しかしながら、この『悪霊』だけは無視できない。というわけでコメントしておく。
乱歩の未完長編となった『悪霊』は、わずかに二章が残されたに過ぎない。しかしこの二章、特に最初の章が異様に濃いのだ。まず漢字が凄く多く、改行も明らかに少ない。ページを開くと黒いのである。これは乱歩にあっては異常事態である。文章自体もテンションが高く、失礼ながら乱歩とは思えないほどだ。さすがに小栗虫太郎ほどではないが、熱気のある文章で引き付けられる。第二章も若干落ち着くとはいえ、それでもまだ乱歩としてはハードな文章である。
この強烈な吸引力を保ったまま話が終わっていれば、真相に少々瑕疵があったとしても乱歩の最高傑作になりおおせたのは間違いない(断言)。しかし乱歩はこの作品を途中放棄してしまう。新保氏が解説で指摘するように、自分のテンション維持が不可能に陥ったからだろうか? それとも、横溝正史が口走った真相予想が当たっていてやる気をなくしたのだろうか? しかしいずれにせよ、同情の余地はない。
前者であれば乱歩の創作能力が駄目なだけ。後者であれば真相を当てられたくらいで筆を折るのは惰弱と指弾して終わりだ。いずれにせよ乱歩の問題点を燻り出すだけであり、乱歩好きならば他の理由を妄想すべきかと思う。だが困ったことに個人的には、前者か後者しか理由はないなと思っているのだ。よって私は乱歩を非難するしかなくなる。機を見て書き継ぎますなどと連載終了時に白々しいことを言っているのも我慢がならない。
いずれにせよ、かくも素晴らしく途中まで書けている作品を続けられなかったのは、乱歩の能力不足を露呈している。乱歩は確かに大家である。それは認めよう。しかし本当に素晴らしい作家であったか否か、より正確に言えば、私好みの作家であったかについて、非常に厳しい結論に至らざるを得ない。
実力不足で力尽きた夢見人の墓標。『悪霊』はそういう意味で大きな存在感を持つ。江戸川乱歩という作家を考える上では必読であろう。
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リレー長編『殺人迷路』の乱歩担当分についてだが、こっちは途中ということもあって、存在価値が皆無な十数ページとなっている。好事家以外は読んでも仕方あるまい。