不壊の槍は折られましたが、何か?

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幽霊塔/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第11巻 緑衣の鬼 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第11巻 緑衣の鬼 (光文社文庫)

 引き続き海外ものの翻案。ただしこれについては、未だに原典が訳されていない。

 全編乱歩らしい味付けがなされているが、健気なヒロインというのは(色々妙に隠すのでうざいが)意外と珍しいかも。乱歩のヒロインはどうも男の言いなりだったり、珍しく主体性があると思ったら犯罪者だったりするわけで、こういう造形は貴重である。
 話そのものは相変わらず語り口がうまく、乗せられてしまう。もちろん傑作ではないが、『緑衣の鬼』と抱き合わせの光文社全集の一巻は、ファンで未読ならば接しておくべき一冊だと思う。

(2008年3月13日追記)原作はA・M・ウィリアムスン『灰色の女』。08年2月、論創海外ミステリで遂に翻訳されました。