不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

緑衣の鬼/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第11巻 緑衣の鬼 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第11巻 緑衣の鬼 (光文社文庫)

 ほとんどの人間が乱歩ほどの高評価を与えない『赤毛のレドメイン家』を翻案した小説。タイトルロールの不気味な影がなかなかに味わい深く、筋運びもさすがにうまい。ここまでだといつもの乱歩だが、アイデアが乱歩の自前ではなく、破天荒な着想ゆえの破綻がない。非常にバランスの良い一作だと思う。というわけで、翻案はうまく行っている。イーデン・フィルポッツが下手な作家ではないだけに、「『緑衣の鬼』の方が優れている」などとは言えないが、これはこれで楽しめるのは素晴らしい。

 乱歩ファンにはお勧め。フィルポッツ・ファンないし古典好きが読み比べるのも一興だろう。