不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1762回定期演奏会

15時〜 NHKホール

  1. ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品77
  2. (アンコール)J.S.バッハ無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番よりPreludio
  3. ブラームス交響曲第4番ホ短調 作品98

 あのNHKホールが完売! 凄いもんですなあ。
 演奏も期待に違わぬ素晴らしさ。まずもってツィンマーマンのソロが素晴らしい。ブラームスのヴァイオリン協奏曲を脂身たっぷりみたいな感じに弾いてくれるヴァイオリニストは、現役では多くなく、多くの奏者がかなりシェイプアップして来るという認識ですが、ツィンマーマンはどっしり構えてスケール豊かに、骨太な表現を披露してくれました。これは意外。しかしギトギトではなくパースペクティブは非常に良いので、すっきり系の伴奏との食い合わせも悪くない。それどころか大変に良好でした。このバランスは素晴らしい。そしてアンコールはすっきり早めの演奏で、アップテンポの曲なのに、前半の熱狂をきれいにクールダウン。
 後半の交響曲は、本ツィクルスの白眉だったと思います。恐らく私のこの曲の実演体験史上最も柔らかく理想的であった第一楽章の入りからノックアウト状態ですが、その後もNHK交響楽団の出す音が半端ではない。分厚くも見通し良く、そして硬質なブロムシュテットの楽曲造形に、豊かな肉付けを施していく。ニュアンスダダ漏れというわけではなく(というかそういうのは指揮者が意図的に抑え気味にした気配もありました)、基本線はすっきり爽やかで純音楽的、無駄なドラマ性は付加しない方向性なんですが、必要十分な情感は付随しており、極めて立派で堂々とした演奏だが痒い所にも手が届いておりました。これは凄い。個人的に面白かったのは、第三楽章がまるでブルックナースケルツォのように、非感情的なダンスに聞こえた点です(後半は恐らく熱気に起因して、喜怒哀楽が入っちゃいましたが)。
 交響曲第4番について、私は勝手に楽章順に、悲嘆→鬱→躁(自棄)→陰鬱&陰躁、という印象を持っているのですが、ブロムシュテットはもちろん一聴き手の感傷的思い込みには一顧だにせず、とにかく理知的に音楽をまとめておりました。そして結果、ブラームスのこの曲はあくまで絶対音楽であることを、これ以上ないクオリティで我々に示してくれたように思うのです。86歳と高齢ですが、まだまだお元気そうなので、次回来日時もぜひ聴きに行きたいと思います。
 なお本日は、山本コンマス(と言ってもここ数年はずっとセカバイのトップ扱いでしたが)のご卒業日でもありました。楽員に称えられ、ブロムシュテットには結構長々と語りかけられ、そして満場の聴衆から拍手で送られる……。遠目だったので判然とはしませんでしたが、彼の動作は、感慨一入の人間のそれだったように思います。演奏内容はもちろん、良い雰囲気の演奏会でもあったことを申し添えます。