不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1760回定期公演 Bプログラム

19時〜 サントリーホール

  1. ブラームス:大学祝典序曲op.80
  2. ブラームスハイドンの主題による変奏曲op.56a
  3. ブラームス交響曲第1番ハ短調op.68

 完売。まあ当たり前です。リズムにものすごくこだわる、今のブロムシュテットの芸風なら大学祝典序曲は素晴らしい出来になるだろうなと思っていたんですが、それはドンピシャ。速めのテンポの冒頭からもうワクワクしっぱなし。初日はちょっと硬かったという感想も散見されたんですが、二日目の演奏を聴く限り、硬さはあまりなかったかな。むしろちょっとオケが力んでいた感すらあって、それは次のハイドン・バリエーションで最も強く感じられました。とはいえこのハイドン・バリエーションも悪くない演奏。それどころか素晴らしくて、各変奏の性格を描き分けながら、全体的にはスムーズに自然体に、そして爽やかに流れていく印象。小春日和の風、あるいは春の(花粉が含まれていない)風、あるいは秋雨前線が遥か彼方にある状況での日本晴れの日の風、みたいな感じ。
 そしてこういう演奏だと、後半の交響曲第1番は、ちょっと明るくなり過ぎないかな、と危惧していたんです。でもさすがはブロムシュテット、そんなことはなかった。もちろん深刻ぶった演奏ではなく、サウンドそのものは見通しが良くて爽やかなんですが、緊張感はしっかりあるし表情は峻厳。第一楽章が軽過ぎるんじゃないかという意見をお持ちの方は、もちろんカラヤンをはじめとした過度にこの楽章に重量を盛る演奏に毒されているだけだから無視して良いんですけれど、たとえばヴァントやベルグルントの録音辺りと比べても、ずしりとした手応えはあったような気がするんだよな。そしてやはり伴奏の刻みにはとことんに拘り抜いていて、だからこそ流れはスムーズ。フレージングがたとえ長かろうと拍に注意を払っているのが手に取るようにわかってなかなか面白かったです。そして最終的に表れるのは、古典美を備えた、過度に劇的でないブラームス。化粧を落としたブルックナーと、化粧を落としたブラームスは、同世代の作曲家ということもあって、意外と似ているんじゃないかと思いました。これが一番感じられたのは、フィナーレの例の主題。最初の提示では、「まあまあ諸君、これからもこのメロディーは何度も出て来てその度に盛り上がるんだから、最初はあっさりと提示しよう」みたいな感じで結構さくさく奏でていました。これが、私には、ブルックナー交響曲における提示部の第三主題みたいな感じに聞こえたのね。これは発見だったと思います。そして、これが何度か出て来る度に、徐々にテンションが上がっていく。こういう構造になっているとは初めて気付かされたな。そしてコーダでは、結構カッと暑くなってましたよ。湿度は低めでカラッとはし続けているのですが。
 オーケストラも大熱演。お疲れ様でした。そしてN響定期らしく、一般参賀はなし。