不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

アルディッティ弦楽四重奏団+野村萬斎/中川賢一〜ケージの中の日本〜

19時〜 世田谷パブリックシアター

  1. エリオット・カーター弦楽四重奏曲第5番
  2. ジョン・ケージ:Five3
  3. ジョン・ケージ:4部の弦楽四重奏曲
  • 中川賢一(ピアノ)
  • 野村萬斎(踊り)
  • アルデッティ弦楽四重奏団弦楽四重奏
    • アーヴィン・アルディッティ(1stヴァイオリン)
    • アショット・サルキシャン(2ndヴァイオリン)
    • ラルフ・エーラース(ヴィオラ
    • ルーカス・フェルス(チェロ)

 エリオット・カーターは、実演・録音共に、今まで聴いて来て心に引っ掛かる物がない作曲家である。残念ながら本日も同じ。何がいいのかさっぱりわからない、空疎な音の連なりがひたすら虚しかった。まあ感受性的に合わないんだろうなあ。演奏そのものはちゃんとしていたと思います。というか意外とまろやかなアンサンブルですな。
 ジョン・ケージ生誕100年(ということはケージはショルティやヴァント、クルト・ザンデルリンクとかと同い年なんですな)ということで、本番は続く二曲。まずFive3だが、これは舞台上にピアノとチェロ、舞台下手側の客席最前方に1stヴァイオリン、二階席正面に2ndヴァイオリン、一階席下手側後方にヴィオラが陣取って、2系統のモチーフを静かに弾いて行くというもの。音楽は《流れる》というよりも《佇む》ように空間をふわつく。これはなかなか面白く、音が不思議と心に染み入ってくるのである。なおピアノの奏法が面白くて、もちろん普通に鍵盤を弾くこともあるのだが、音出しの6割程度は、予め弦に通してある糸(ひょっとして弦楽器の弓かしら?)で、デンタルフロスのような要領で弦をこすって音を出してました。それをマイクで拾うのね。高音部の弦をこすると割とキーキーした音になるのだが、中低部の弦だと様相が異なり、深い海の静かなうねりみたいな感じに鳴っておりこれまた面白かった。
 ここで休憩が入り、後半は20分程度の4部の弦楽四重奏曲。本来は舞踏音楽でも何でもないんですが、ここで野村萬斎が登場した。アルデッティ弦楽四重奏団は舞台奥に陣取っており、萬斎はその前にあつらえられた結構大きな白い円の中で踊ってました。この曲は楽章ごとに夏→秋→冬→春と進み、インドの死生観を表しているようですが、萬斎の踊りはそこに必ずしも捉えられることなく――と言っても、夏と春はどうやら飛んでいる虫をイメージした踊りになっていたように見受けられたが――冬は「死」ではなく「眠り」と解釈するなど、これまたなかなか面白かったです。
 今シーズンはこれが私にとってのコンサート事始め。どんな音楽に出会えるかな。