不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

PMFオーケストラ東京公演

19時〜 サントリーホール

  1. ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調op.102
  2. R.シュトラウスアルプス交響曲op.64
  • デイヴィッド・チャン(ヴァイオリン)
  • ラファエル・フィゲロア(チェロ)
  • PMFオーケストラ(管弦楽
  • ファビオ・ルイジ(指揮)

 Cブロック3列6番に座っていた(後半は隣の空いていた7番に移動)中年のクールビズ男が、二曲とも終わった途端に立ち上がってブラボーを絶叫して絶叫して絶叫しまくる。拍手も、立ち上がった上に頭の上まで手をふりかぶって叩くので、後ろの席に座っていた人々は大変に迷惑そうでした。ブラボーのタイミングも変で、指揮者もソリストも袖に引っ込んでいるのにそういうタイミングでもブラボー。更に言えば、指揮者やソリスト(あるいは立たされた楽団員)が正面を向かずP席や左右に顔を向けている時は、頭の上で拍手せずに普通に胸の前で拍手、いやそれどころか座ってさえいる。あのうるささとオーバーアクションは、感極まってのこととは思うが、あれほどエキサイトすること自体が正直言って狂気の沙汰である。あのおぞましい叫び声に自分の中の余韻を破壊されたくないので、演奏者には大変申し訳ないが、後半は指揮者2回目のカーテンコールで席を立たせていただきました。
 しかし演奏は充実していたと思います。若者主体のオーケストラでありつつ、音色は意外とシックで、響きは低音がどっしり構えるピラミッド構造。こういう音だと、ドイツロマン派プログラムも何の違和感もなく、安心して聴けます。前半では、大編成でありながら音量はセーブして(というか指揮者がそれを《課題》に設定したと思しい)、変なことは確かにしないけれど一応はソリストの二名(どちらもメトロポリタン歌劇場の首席奏者)にピタリと付けており見事。楽曲の構成はさておき、サウンドは完全に交響曲ですな。後半の《アルプス交響曲》は、標準的な50分の演奏時間の中で、ルイージの指揮下、非常にしなやかな登山を見せてくれました。どこに出しても恥ずかしくない、立派な鳴りであった。各ソロもやる気十分、お腹いっぱいでありました。客もルイージが指揮棒を下ろすまで静寂を維持。返す返すも一人の男の正気とは思えない絶叫ブラボーが惜しい。