不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

読売日本交響楽団第517回定期演奏会

19時〜 サントリーホール

  1. 武満徹:トゥイル・バイ・トワイライト(読響1988年 創立25周年記念委嘱作品)
  2. バルトークヴィオラ協奏曲
  3. 【アンコール】バルトーク:44の二重奏曲から21番「新年の挨拶」、38番「ルーマニアンダンス」
  4. リムスキー=コルサコフ:交響組曲シェエラザード》op.35

 素晴らしい演奏会であった。オーケストラが絶好調で、最初の《トゥイル・バイ・トワイライト》から、くっきりとしかし繊細に鳴り、ニュアンスも抜群によく、音色のグラデーションが推移して行くのが手に取るようにわかる。こうなると武満徹の真髄が眼前に現出するわけで、目が覚めるような思いをしながら聴き惚れました。
 次のバルトークは、ソリスト清水直子という失敗しようのない人を招いての演奏となりましたが、ソリストが楽曲の深奥に迫らんと気迫に満ちた素晴らしい演奏を披露したのはもちろん、読響の伴奏も息がぴったりで技術的精度も極めて高く、相乗効果で、楽曲をじっくり堪能させてくれました。清水さんは本業が本業だけに、オーケストラの方を頻繁に向いて「合わせ」るシーンが多かったのも印象的です。この副産物として、今日はP席に座ってる人にもソロの音がよく飛んで行ったんじゃないでしょうか。アンコールも洒落ていて、読響のヴィオラ・トップの鈴木康浩とのデュオで、バルトークの小品を2曲(連続して演奏されました)。息がぴったりの素敵な演奏でしたが、ソリスト・アンコールにも独奏じゃなくてアンサンブルを用意する辺り、やはり清水さんは本質的にオーケストラの中の人なんだなと深く納得した次第であります。
 後半のシェエラザードでは、広上氏が読響を開放的に鳴らし、華やかなオーケストラ・サウンドを目一杯楽しませてくれました。もちろん野放図に鳴っているわけではなく、パートはくっきり分かれて聞こえるし、木管はニュアンス豊か、金管もハーモニーの中にあって悪目立ちはしない節度が保たれてました。打楽器も概ね綺麗に鳴っていて、面白かったな。場面場面の描写性にはそれほど顧慮していなかったような気がしますけれど、第一楽章と第四楽章は弦をうねらせる局面が結構あったのに、第二楽章と第三楽章はハキハキてきぱきと進めていたように思われ、表題性にも楽章単位では配慮していたように聞きました。なおヴァイオリン・ソロは本日のコンマスの小森谷巧さん。ナヨナヨにもパッショネートにもさせず、堂々とした仕上がりで充実していました。
 広上淳一は指揮姿が相変わらず笑えますが、それ以上に問題なのは、各奏者がパッセージを奏で終えると頻繁に親指を立ててGJサインを出すこと。しっかり音楽を聴こうと、曲想をひたすら追っているこちらとしては、曲中にこれほど高頻度で指揮者からオーケストラへの賞賛慰労が挟まるのは、正直邪魔であります。まあ目を閉じたり、指揮者を見ずにオーケストラ見ていればいいんですけどね。素晴らしい指揮者なのにこれだけが残念です。