不壊の槍は折られましたが、何か?

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新日本フィルハーモニー交響楽団第497回定期演奏会

14時〜 すみだトリフォニーホール

  1. シューベルト交響曲第7番ロ短調《未完成》D759
  2. R.シュトラウス交響詩英雄の生涯》op.40

 素晴らしい演奏会であった。まず前半の《未完成》からして、階層化された響きが儚くブレンドされて、深淵が静かに、だが徐々に迫って来るようでちょっと怖い雰囲気すらあった。そして強音部は結構彫りが深く、緊張感もピンと張っており、耽美する箇所も皆無。ハーディングがこの曲をシリアスに解釈しているのが手に取るように伝わる演奏であったと思います。オーケストラの反応も良かった。
 後半も素晴らしい。階層化された響きを今度は力強くブレンドして、初っ端から充実した響きを実現している。勢いも良く、オーケストラの仕上がりも良好で、曲が進むに連れて、このオーケストラにしては響きが分厚くなって行ったのも印象的です(だから後半の方が説得力も強かった!)。かてて加えて細部のニュアンス付も万全でした。これで名演にならない方がおかしい。コンサートマスター・チェさんのソロは、何というか実に情熱的。シュトラウスはヴァイオリン・ソロにおいて、基本的には包容力/内助の功的な側面を強調しているように思うんですが、そういうのが全く出ない。でも烈女然としてこの演奏も、それはそれで大変良かった。
 今日は会場も非常に静かで素晴らしかった。英雄の妻のソロでは、ごく一部で結構大きな咳が聞こえてきたりもしましたが、まあこれはしょうがない不可抗力でしょう。
 ただ、新日本フィルの限界もやっぱり見えていたように思います。ダウスゴーの時はあれほど開放的に鳴っていたのに、主に弦がどうも非力。丁寧にニュアンス豊かに、指揮者の指示を十分に咀嚼してから弾くと、どうやらこのオーケストラは力感が弱まってしまう模様です。指揮者の意図を完璧に捉えつつそれでもなお強烈に鳴る、より上位のオーケストラ――海外オケに限らない――に比べてやっぱりちょっと弱いように思います。いやそれはすみだトリフォニーホールの上品なアコースティックから得られた《成果》かつ《副産物》なのかも。代わりにノーブルで高貴な雰囲気をまとっているのも確かなわけである。この音を作ったのはホールとアルミンクであるのは間違いない。アルミンクが退任し、彼がこれまで振って来た分をメッツマッハーとハーディングがカバーする再来年度以降、さてこのオケの音はどう変わるのか。今後に注目していきたい。