不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ロイヤル・フランダース・フィル来日公演

19時〜 すみだトリフォニーホール

  1. エルガー:チェロ協奏曲ホ短調op.85
  2. 【アンコール】J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第3番よりサラバンド
  3. マーラー交響曲第1番ニ長調《巨人》

 本来チェリストはマリー=エリザベート・ヘッカーのはずで、彼女の日本デビューにもなるはずだったのだが、健康上の理由で6月末まで演奏活動を休止することになり、急遽代役が手配された模様である。残念ではあるがそもそも、ヘッカーもワトキンスも実演・録音共に聴いたことないし、不勉強ゆえ評判も全く知りません。ゆえにフラットな気持ちで演奏会に臨むことができたわけです。
 で、その前半のエルガーですが、これがまたびっくりするほど何も起きない演奏。ちゃんと弾いてたし内容もあったけど、それ以上のものが何一つない。チェリストのメロディー/リズム/音そのもののバランスは良かったと思うんですが、うんまあ良いだけだったな。酷い演奏では全くなかったし、ブラボーも飛んでましたが私の琴線には引っ掛からなかったということで。アンコールも同様でしたが、ややリズムが勝った演奏で面白みはこちらの方があったか。
 後半の《巨人》は、第一楽章こそどうということもない演奏でしたが、第二楽章の中間部辺りから、非常にエレガントな演奏に転化して行きました。デ・ワールトの指揮は全くケレン味がなく芝居っ気もなく、フレージングやアクセント、パートバランスも全てがあるがまま、特徴のない指揮ぶりでしたが、その分オーケストラの音はよくブレンドされていたし、音楽の流れにはかなり細かく神経を使った模様で、第三楽章以降は、プレーンに奏でられるメロディーが非常に美しく感じられました。陰影も適度にあって、旋律美を堪能。ボヘミアの民俗臭は完全に蒸留/濾過されており、面白みには欠けましたが、誠実な演奏にはかなり積極的な好感が持てる。そんな演奏でした。
 オーケストラも好演。弦も管も打楽器も、一流オケには一歩か二歩及ばないんですが、逆に言うと全てがその程度で済んでいるので、総体として鳴るサウンドそのものは結構味わい深い。それが、マーラーのメロディーを一々しっとりと聴かせてくれて、結構満足しました。総合的にはいいコンサートだったんじゃないかしら。特殊なことは本当に何一つしないので、しつこいようだが面白くはなかったし、圧倒的な感動に襲われたかというとそれも断じて違うけれど、一定の満足感は得られました。