不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

新日本フィル創立40周年記念 特別演奏会

2012年5月5日18時〜 サントリーホール

  1. R.シュトラウス:《町人貴族》組曲
  2. ワーグナー:ヴェーゼンドンクの5つの詩(1〜4曲はモットル編)
  3. マーラー交響曲第1番ニ長調《巨人》

 記念公演ということでチケットお高め。ひょっとして本当は小澤征爾が振る予定だったのかも知れませんが、あの体たらくではもう復帰無理だろうなあ1時間振ったら熱出してぶっ倒れるからな。
 まあそれはともかくハーディングである。一曲目の《町人貴族》からコンビネーションは良好で、楽しげな曲が快活に演奏されていて好印象。まあもっと味わいやらニュアンスやらに富んだ演奏もあり得たでしょうが、すっきりさっぱりでも楽想は結構抉られている、という感じの今日の演奏も悪くはありません。いや悪くないどころか……。あと、原曲がラモーの箇所も違和感なく組曲全体に溶け込んでいる辺り、いつも思いますがシュトラウスの作曲技法も見事なものがあります。
 二曲目のワーグナーでは、やはり藤村さんが圧巻。声も凄いがディクションも見事。ドイツ語は解しませんが、いやホント、詩の佇まいが美しい。伴奏も素晴らしく、藤村さんが歌い終えても後奏で聴衆の心をつかんだまま、5曲ともに静かな幕切れを実現していました。ハーディングがこれほどストレートにワーグナーの官能性を引き出すのは、正直言って意外であった。引き出し多いんだな。
 最後のマーラーは、先のマラ5やマラ9以上に、オーケストラの反応が良かった。初期作品ということで楽曲そのものがより単純だということなのかも知れないし、ハーディングの解釈もより真っ当なだったということもあるでしょうが、それでもいつもは聴こえないパートが聞こえて来て、だがしかしそれが前面にごくごく自然に出て来るし、全体の流れもしなやかであり「細部を強調する際にも流れが止まらない」辺りに、コンビの深化が如実に感じ取れました。素晴らしかったな。ただし、第二楽章で主部のリズム処理にオケが手間取っていたりしてたし、さらにもう一段か二段、精緻な演奏を追求できるようにも思われました。新日本フィルの技術的限界であるかも知れませんが、ここは敢えて、今後の伸び代として期待しておきたい。まあでもホルンはどうにかならんのか。N響、東響、都響、読響と比較しても、お粗末だぞ。
 そしてこの演奏会の翌々日の7日、ハーディングのMusic Partnerとしての任期延長が発表されました。まあわずか2年の延長なんですが、今後もまだ色々聴けそうでありがたい。演奏もさらに深化するだろうから、新日本フィルには、より複雑な曲想の楽曲でもがっつり中に入れるよう腕を上げていただきたく、今後の研鑽に期待したいと思います。ノーブルだが音楽に深くは切り込まない音楽監督は消えてくれるので、これを契機に頑張っていただきたい。