不壊の槍は折られましたが、何か?

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読売日本交響楽団第548回名曲シリーズ

2012年4月21日 18時〜 サントリーホール

  1. メシアン:ほほえみ
  2. イベール:3つの小品
  3. イベール:アルト・サクソフォーンと11の楽器のための室内小協奏曲
  4. (アンコール)ピアソラオブリビオン(忘却)
  5. フランク:交響曲ニ短調

 素晴らしい演奏会であった。まず最初のメシアンはとても精妙な演奏で、静謐なハーモニーが聴く者の心に深く染みわたる。一方、鳥の鳴き声を模したモチーフの“それっぽさ”も巧みに表現していた。続くイベールの《3つの小品》は、指揮者なし、読響の管楽器首席奏者たちのみで演奏されたが、これがとてもお洒落。カンブルランが指揮したときのように、音の粒立ちがとてもクリア。練習時にちょっとアドバイスしたりしたんでしょうかね。そして続く室内協奏曲は、これまた洒脱でそして軽快なカンブルラン指揮のオーケストラを背後にして、須川展也が、技術的にも音楽的にも見事な演奏を披露。嫌味にならない範囲でなまめかしい、華やかにして軽やかな音に、私すっかり魅入りました。
 そして後半は、前半とガラリと趣向を変えて、非常に分厚いどっしりとしたアプローチによる、濃厚な官能性すら感じさせるスケールの大きな演奏となってました。まるでワーグナーでも聴いているかのような、重厚な演奏であった。でも細部まで完璧にコントロールされており、ハーモニーそのものや、楽曲の組み立てはあくまでも理知的、そしてどこまでもクリア。ややもすると勝手に“熱演”という形で暴走し始める読響を、カンブルランはリズムとテンポをがっちりキープすることで、最初から最後まで完全に制御下に置き、これを前提として、楽想を抉りまくる、というアプローチであったとお見受けしました。強烈な熱気とクリアなサウンドの両立は、まさにカンブルランの面目躍如といったところでしょう。読響も絶好調。このコンビのベスト・フォームではなかったでしょうか。個人的には、音をブレンドさせたり混濁させたりせず、パート分離もきっぱりやってクリアな奏楽で貫徹しても、この曲がちゃんとオルガンのように響くことに気づかされて驚倒する。この曲の実演で、今後これ以上の演奏に遭遇できるかなあ……。