不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1715回定期演奏会

15時〜 NHKホール

  1. マーラー交響曲第8番変ホ長調《千人の交響曲

 当初発表からキャスト変更のあった公演である。まず10月25日にソプラノのクリスティーネ・ブリューワーがエリン・ウォールに、テノールのポール・グローブズがジョン・ヴィラーズに、それぞれ「本人の都合で」変更。11月29日には、メラニー・ディーナーが中島彰子に「健康上の理由で」変更。この種の大本営発表をどう受け止めるべきか、という問いが、東日本大震災後(なかんずく、福島第一原発事故後)の日本の聴衆には突き付けられている。
 さて演奏。デュトワがいつも以上に大きな身動きで大編成をテキパキさばいていたのが印象に残る。全体的にはとても洗練された造形ですっきりまとめ上げられていて、聴いていてとても心地よかった。オーケストラのアンサンブルはさすがN響で鉄壁、特に弦と木管は底力を発揮して個人技面でも見事であった。一方、金管は、首席トランペットが肝心なところで音を外していたのが残念であった。でも皆さん、結構な力演で、クライマックスでは遠慮会釈ない大音響を現出、小さい音の箇所では一転して(弾いている人数は多くても)繊細な表現が希求されていた。合唱にもこれは言えて、東京混声合唱団もNHK東京児童合唱団も素晴らしい演奏を披露。デュトワのバランス感覚も相まって、非常に美しい《千人》が達成されていた。前日の1日目の演奏では、第1部が勢いに任せてる感ありとの情報を得てましたが、今日はそんなことは全くなく、第1部・第2部ともに、デュトワのコントロールが行き届いていたと思います。第1部がスペクタキュラーな音楽である一方、第2部では内省的でしんみり味わい深い音楽に聴こえる、という現象を実演でも確認できたのは収穫かな。
 独唱者は、テノールは高音部が「音が聞こえない」レベルで全く出せておらず落第点。誰だこれ呼んだのは。バスも非力でした。しかし他は満足すべき水準に達しており、特にエリン・ウォールと天羽明惠、スザンネ・シェーファーの歌にはグッと来た。
 なおこの演奏会での演奏者は、総勢で500人超。同曲初演の1,000人超のほぼ半分ながら、それでもやはりこれだけ出て来ると見た目も圧巻だし、日本一巨大なゴミ箱であるところのNHKホールすら、最大音量時には音が飽和寸前になっていて、なかなか面白かった。