不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団来日公演(東京2日目)

16時〜 サントリーホール

  1. ラヴェル:道化師の朝の歌
  2. 細川俊夫:ホルン協奏曲《開花の時》
  3. ブルックナー交響曲第9番ニ短調

 オーケストラがコンマスを除き出揃った演奏開始、指揮台のない舞台に、ユニセフの関係者と日本ユニセフの副理事長、(文脈から言って東日本大震災被災地の)女子高生4名、通訳、そしてラトルが登場。ベルリン・フィルユニセフ経由で募金したり絵本作ったりしたらしく、絵本は少し遅れて舞台に持ってきたコンマス樫本大進が女子高生に贈ってました。なんか今日は、ラトルとベルリン・フィルユニセフの親善大使として演奏するらしいです。そして日本ユニセフ副理事長からは、ラトルとベルリン・フィルに感謝状が贈られておりました。
 そういうのは被災者に援助が行きわたってからにしてくれ。
 非被災地在住者たるユニセフ日本ユニセフによる胸が悪くなるような公開オナニー偽善イベントの後、演奏開始。ベルリン・フィルは最初の《道化師の朝の歌》から全開で、威力的なサウンドとノリの良いリズム感を見せ付けましたが、それ以上にピアノ以下が素晴らしい! 中間部のファゴットも素晴らしく、最高の演奏の一つになっていたと思います。
 細川俊夫のこの曲は今日初めて聴きましたが、ホールの四隅に金管奏者(正確には、LCとRCの突端にホルン1名ずつ、LA2扉の前にトランペット1名、RA1扉の前にトロンボーン1名)を配し、舞台上の定位置にいる独奏ホルンと同期化して適宜小さめの音を鳴らしていました。どのような言葉を使えば良いのかわかりませんが、四隅の奏者は、二か所ほど、楽器から楽音を出さずに息の音だけさせる、なんて奏法で演奏していた箇所もあってかない面白かったです。楽曲は、池(=オーケストラ)で蓮の花(=独奏ホルン)が開くことを表しているとのこと、四隅の奏者は「開いた花弁」を空間的に表現していた模様です。言われてみればそう聞こえなくもなかった。この曲で、ベルリン・フィルの弱音方向の射程の長さが遺憾なく発揮され、聴いたことがないほど小さな音が圧倒的に美しく鳴らされており、弦も木管金管も打楽器も全てが遥かな高みに達していました。涼やかで清らかで聖性のある音楽だったと思います。これは凄い。演奏終了後は1階客席から細川俊夫本人も登場、大いに盛り上がりました。メロディーのない現代音楽ではありますが、これほどの技術でかくも美しく演奏されたら、もうたまらない。感動したことを告白しておきます。
 そして後半のブルックナーは、ラヴェルや昨日のマーラーとはがらりと趣向を変えて、とにかく美麗で流麗。崇高で宗教的な美ではなく、もっと温かく親しみやすい柔の美であったのが印象的で、それはまるで、細川俊夫の演奏で開いた花が集められた魅惑の花園のようでした。もちろん迫力に欠けることはなく、第一楽章でも第二楽章でも、スケール感豊かにオーケストラを鳴らし切っているのですが、峻烈で人を拒むような要素は何一つなく、どの楽想もどのパートもクリアに、しかし総体としては美しくブレンドされて、楽曲全体を聴衆に愛でさせてくれたように思います。ラトルはチェリビダッケが好きだったようですが、チェリのテンポをまともにしたら意外とこういう音楽になるんじゃないかなと感じられた次第であります。包み込まれるような第三楽章は、ただただ、本当に美しくて陶然としながら聴いておりました。またこのブルックナーでも、ベルリン・フィルの演奏能力の高さは遺憾なく発揮されており、弱音の素晴らしさはどのセクションも筆舌に尽くしがたく、またどんな強奏になっても、どの楽器も全く埋もれない。ここまで凄まじいのは、シカゴ響しか類例が思い浮かびません。ただし、私が聴いた時はハイティンク指揮だったこともあってか、シカゴ響はもっとシックな印象ですが、ベルリン・フィルは元気にそれをやる。
 正直、今日の方が個人的には好みに合っていたかな。