不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

東京交響楽団第594回定期演奏会

18時〜 サントリーホール

  1. シェーンベルク:モノドラマ《期待》op.17
  2. フォーレ:レクイエム op.48

 マチネーの名曲演奏会とは異なり、何がどうしてこうなった、という感じの不思議なプログラムですが、これが意外と合うのです。シェーンベルクは既に無調時代突入後の楽曲で、シュプレッヒシュティンメとまでは行きませんが、ソプラノの歌は最早限りなく台詞に近付いております。物語の内容がフロイト臭い狂気の世界であるだけに、シェーンベルクの、巨大編成を駆使して多種多様な小さめの音を用意するオーケストレーションが似合う似合う。スダーン指揮下の東響は大健闘していて、どんな些細な箇所でも全く手を抜かず勢いに任せず、しかし勢いと情熱は確固としてある、見事な演奏を披露していました。歌手も立派で、登場人物である女の、情念の世界にどっぷりずっぷり浸れる素晴らしい経験をいたしました。後半は打って変わって清廉なレクイエムですが、テンポをやや遅めに設定して抉るべきところは抉る演奏となっており、録音で聴くチェリビダッケほどではないですが、天国的なイメージで語られることの多いこの名曲を、死者を悼むレクイエムであると実感させる痛切な表現で演奏しておりました。オケは前半に引き続き素晴らしい出来上がりで、東響コーラスも、とてもアマチュアとは思えない最高のパフォーマンスを見せておりました。森麻季のソプラノは、オルガン前に陣取っての歌唱で、まるで天上からの歌声であるかのように会場に鳴り渡り、これも素晴らしかった。バリトンは、十分及第点ではありつつも、このグレードの高い演奏においては一人負けの感なきにしもあらず。まあしょうがないやね。