不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

東京都交響楽団第725回定期演奏会

19時〜 東京文化会館

  1. モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488
  2. (アンコール)ショパン:練習曲ホ長調op.10-3《別れの曲》
  3. R.シュトラウス家庭交響曲op.53

 フレディ・ケンプヴィルヘルム・ケンプの遠縁、そして母親は日本人だそうです。そのためかどうか、アンコールは「ショパンエチュード、ワカレノキョク」と日本語で紹介してから弾き始めましたな。彼のピアニズムは非常に真っ当、タッチの粒立ちも良く、モーツァルトでは、小回りの利いた運動性の高さとシックな感触、そして特に第二楽章で見られるしっとりした情感をどれも見事に表現していました。ボージチ指揮都響の伴奏も、やや微温的ではありましたが過不足なし。なお、ケンプのアンコールは古典的造形美を優先して表出し、いかにもショパンといった雰囲気を重視してはいなかったように思います。これはこれで見識ですが、この芸風ならop.10を一気に全曲聴いてみたいかな。アンコール・ピースとして取り上げるには、これだとちょっと物足りない。
 後半の家庭交響曲は、ボージチが都響をしっかりくっきりと鳴らして、どういうスコアになっているかが手に取るようにわかる、お手本のように見事な演奏となりました。ただし四十四、五分、延々とずっと明るく楽しい家庭を描写して終わるので、退屈極まりない。夫婦のベッドシーンを描写していると思しい第三部も、愛する者同士の日常としてのセックスであって、背景に後ろめたさも、息苦しいまでの緊張も、猛り立つような情熱もないから、聴いていて全然面白くないのね。他の部も含めて、家庭の幸福というのは他人には同じ気分を運べないんだよなあと。第四部も、俺の家族は幸せだと延々と喚き散らしているだけという印象しかありません。うーん、このレベルの演奏であっても、俺の琴線には一切触れないまま終わってしまうのか……。