ウラディーミル&ヴォフカ・アシュケナージ ピアノ・デュオ
19時〜 サントリーホール
- プーランク:2台のピアノのためのソナタ
- ラフマニノフ:組曲第1番《幻想的絵画》op.5
- ムソルグスキー/リムスキー=コルサコフ版:禿山の一夜(ヴォフカ・アシュケナージ編曲)
- ラヴェル:マ・メール・ロワ
- ラヴェル:ラ・ヴァルス
- (アンコール)シューマン/ドビュッシー編:カノン形式による6つの練習曲より第4曲
- ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
- ヴォフカ・アシュケナージ(ピアノ)
ウラディーミル・アシュケナージは、レコード録音が盛んだった古の時代において、ポリーニ、アルゲリッチ、ブレンデルらと共に「世界最高の」ピアニストの一人だとされていたことのあるピアニストである。しかし1980年代から活発化した指揮活動の更なる拡大ゆえ、90年代にはピアニストとしての活動が激減、今世紀に入ると、ピアニストとして演奏会に参加することは稀になった。自分に厳しく他人に甘い*1人ゆえ、加齢によりやや落ちて来た自分のテクニックが許せないのかもしれない。でも録音はするんだよなあ。よくわかりませんこの人の頭の中は。
その彼が、長男(と言っても50歳ですが)のヴォフカと一緒にデュオとして、久々に日本の聴衆の前でピアノ演奏を披露するということで、ローマ聖チェチーリア管の演奏会を差し置いて行って参りました。下手すりゃ、これがアシュケナージ父のピアノを生で聴ける最後のチャンスだもんねえ。
演奏はとても素晴らしいものでした。曲にもよりますが基本的に主が息子で、父は伴奏パートを担当。二人とも奇矯なことは全くしないし、質実剛健の風格や気品もそれほどないんですが、とても流麗に美しく練り上げられており、最初から最後まで心の底から安心して聴けました。両人の息もぴったりで、相手に「仕掛ける」ような瞬間は皆無。ここを物足りないと感じる人もいるんじゃないかと思いますが、私は、「合わせる」ことの大切さとかけがえのなさ、そして心地良さを最良の形で教えてもらったと好意的に評価したいです。音色の多彩さや呼吸の深さでは父アシュケナージに一日どころではない長がありましたが、息子の方も別段悪いピアニストではありません。耳が悪い意味でそばだてられることはなく、快適に聴けたと断言しておきます。主旋律をお互いに投げ合う箇所なんかも異常なまでにスムーズに進行していて、驚かされました。
プーランクや《マ・メール・ロワ》辺りで、もうちょっと粘ったり抑揚付けたりしてもいいかな、という箇所が散見されたように、表現面ではとてもソフトかつ淡白。でも充実した音楽がずっと流れていたのも確か。というか、ここまで自然体で何ということもないように美しい演奏を貫徹できるのは、やはりただ事じゃないと思うんです。ラフマニノフとアンコールのシューマンは本当に耳の御馳走だったなあ。そして《禿山の一夜》での夜明けのシーンを弾いた、ウラディーミル・アシュケナージのたっぷりと、そしてしみじみした情感! 嗚呼ウラディーミル・アシュケナージ、お前はなぜ指揮者なんてやっているんだ。
なお息子の方は譜面がiPadでした。縦に置いて1ページごとを表示させるのね。譜めくり担当の女性は、譜めくりの回数が単純計算で倍になっていて大変そうでした。紙だったらめくりゃあ終わりですが、iPadだとちゃんとめくれたか画面を見て確認せねばならず、こっちの面でも大変そうでした。譜面台には紙の方がいいのかも知れません。
*1:自分が指揮するオーケストラもこの「他人」に入っているのが困りものだが。