不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ハオチェン・チャン ピアノリサイタル

14時〜 東京文化会館小ホール

  1. D.スカルラッティソナタ ホ長調 K.380
  2. D.スカルラッティソナタ ハ長調 K.159
  3. ショパン舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
  4. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57《熱情》
  5. ラヴェル:夜のガスパール
  6. リスト:スペイン狂詩曲S.254
  7. (アンコール)シューマン子供の情景op.17より《トロイメライ
  8. (アンコール)プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調op.87より第4楽章
  9. (アンコール)中国湖南省民謡:渕陽河
  • ハオチェン・チャン(ピアノ)

 隣の大ホールでは無事(?)来日を果たしたバイエルン州立歌劇場の《ナクソス島のアリアドネ》が華やかに開催されておりましたが、金欠&どう考えても今年の*1外来オペラ公演は誰がいつキャンセルするかわからず、あまりにもリスクが高過ぎるのでチケット購入を回避し、ハオチェン・チャンのリサイタルを選択。彼は1990年生まれで、2009年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝しております。
 で、そのハオチェン・チャンは、実に素晴らしいピアニストでした。とにもかくにも音が綺麗。テクニックの切れ味が抜群で、抑揚もくっきり付けて聴き手を初っ端からがっちりとグリップ。またテクニックを音楽的に聴かせる才能にも長けている上、楽曲のアナリーゼも相当綿密にやっているとおぼしく、この非常に多彩なプログラムにおいても、特段の得手不得手を感じさせなかったのは凄い。まあベートーヴェンだけはちょっと劇的過ぎるかもなとは思いましたが、この若さであれば「劇的」ってのは弱点にはならんだろうしなあ。ただ、特に舟歌ラヴェルに見られたように、もうちょっと湿り気があっても良かった瞬間はありました。カラッと晴れ上がったかような音で一貫しているんですが、これは、あらゆる楽曲において十全の効果を発揮する手法ではないと思います。ただまあハオチェン・チャンはまだまだ若いんだし、対策は今後考えれば良い。今は、この爽快な音に浸るのが聴衆の務めであると考えます。事実、スカルラッティやリスト、そしてアンコールのプロコフィエフは文句の付けようがない完璧なピアニズムを見せ付けてくれたと思います。
 ハオチェン・チャンが本物であることは間違いありません。後は、しがらみや重圧で潰れないように着実にキャリアを重ねていただければ良いと思います。

*1:「今年の」というのは実は非常に甘めの想定です。順当に考えれば、プルトニウム半減期を迎えるまで、延々と《日本に来ると死ぬと思っている奴は、それこそ死んでも絶対に来ない》状況が続くのでしょう。つまり、これまでキャンセルした人は一生もう来ないし、今後もバカスカ中止がかまされると共に、「そもそも来日公演の契約ができない」状況が出来するでしょう。2050年代になったら少しは緩んで来るかな。それまで日本の経済力がもつとはとても思えないが。